韃靼タイフーン 安彦良和 (著)
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韃靼の血の命ずるところに往くのみ!! ●歴史系漫画道をひた走る安彦氏には珍しく、この作品の前に描かれた「マラヤ」に続く近未来を舞台にしたアクションものだ(アラハバキという単語が古代つながりではあるが)。「マラヤ」では架空の世界が舞台だったのだが、「韃靼タイフーン」では安彦氏の故郷でもある北海道が舞台となっている。ゆえに舞台は氏にとって自分の庭のようなもの(と思われ)、細かい描写で描かれている。 物語は、1・2巻の「函館編」3・4巻の「ウスチ・アカン編」の2部に分かれている。「ウスチ・アカン編」は「函館編」から5年後が描かれ、成長したメインキャラクター達が引き続き登場するのはもちろん、新たなキャラクターも加わり、残酷な描写になりがちな紛争モノのストーリーを登場人物の強烈な個性でコミカル調に和らげている。 ストーリー展開は、登場人物が非常に多く、戦線も組織が複数に絡み合い複雑になっているために話が分かりにくくなっているようだ。ちなみに以下の組織が入り乱れ、それに登場人物が絡んでいくことに。 「函館編」
「ウスチ・アカン編」
ご覧のとおり、非常に組織が多いのが分かるだろう。物語のはじめから主人公と、アラハバキ一党との関係が詳しく説明されるわけでもなく、いきなり頭目に担ぎ上げられる主人公、主人公卓馬が「どうなっちゃうわけ?」と不安になるのだが、読者サイドも突拍子の無い展開にわけがわからない状態なので同じように不安に駆られる。そういう効果を狙って描いているのか、いないのか? そこは著者たる安彦氏しかわからない。また、それに加えて台詞や情報量が多いために、話がスピーディーに流れず読んでて疲れてくる部分もあった。おそらく、この物語は一度サラリと読んだだけでは、その面白さは読み手に伝わらないように思う。きっと「なんだこれ?ふざけてンのかなあ・・・?」と読むのを投げ出す読者もいることだろう。しかし、ここは一つ、ブックオフに走るのは待って欲しい。何度か読み込んでいくと、話の展開や妙な間のギャグ(?)がきっと体に馴染んでいくはずだ。 今回は戦艦や戦車など、人物のみならずメカモノも描写することになったが、絵柄については細かい部分まで丁寧に描写されていると感じる。安彦氏ってわりと戦車とか描くのスキなのだろうか? かなり個人的に楽しんで描写しているように思える。戦闘シーンも緊張感がよく出ていてGoodなカンジ。ただ一つあげるならば、スクリーントーンを多用し、使用方法もベタ張りで単調に見受けられるのが残念なところか。ベタベタ貼りまくれば良いというものでもないが、現在執筆されている「機動戦士ガンダムTHE ORIGIN」でも同様な手法なので、もう一工夫必要なのかな?という印象を以前から持っているのだが、皆さんいかがだろうか? さて、この物語を牽引する登場人物達については、今回は個性的な人物を配している。特に後半、安彦氏の悪ノリというか、独特な暴走を見せるミサカ氏。彼はチョット出で終わるものと思っていたが徐々に個性を見せ始め、ウスチアカン編では話の流れを変えるキーマンにまでなってしまう。彼以外にもパロディとして描いているのか、銭形警部をモデルにしたと思える八幡田警部。岩下志摩(?)がモデルの亀甲組の姐さん。某首相や某大統領までパロディー化しているが、その辺大丈夫だったのか心配になったりします。こうした個性的なキャラクターが活躍する反面、物語のキーとなるアナスタシアの存在が妙に希薄だったのは残念なところ。他のキャラの存在感に食われてしまった感がある。また、安彦氏の遊びとして今回出演のホストクラブのマスターが「ガンダムTHE ORIGIN」にも友情出演しているので、こういった遊び部分を探してみるのも面白いでしょう。 この作品は後半からラストにかけて尻すぼみにバタバタと終わってしまうのが安彦氏らしいといえば、らしいのだが、これは「機動戦士ガンダムTHE ORIGIN」を連載開始したためで、同時進行はやはり辛いものがあり、ORIGINに集中するため早々に終わらせたというのが真相のようだ。 物語としては「函館編」なんかは「ウスチ・・・編」よりも完成度が高く、第2部以降もそれなりに面白かったのだが、後半からラストに向かって悪ノリ的な印象を受ける読者は多いように思う。ラストのバタバタ劇もいかがなものか?というカンジで、正直上手くまとめたとは言いがたい。ただ、光る点を言えば、現在(2004年)のイラク情勢で自衛隊派遣と情景がダブる部分があり、安彦氏の先見性というか、時代風刺的なところもさりげなく盛り込まれているようにも思える(気のせいですか?) もっと余裕があってストーリーを練り上げられたらこんなバタバタ結末にはならなかったと思うが、肩の力を抜いて娯楽作品として楽しむ分には良いのかもしれない。なにより、最後までバイタリティ溢れるミサカ氏の、どんな環境でも生き抜くサバイバル精神が我々に元気を与えてくれることだろう。 最後に、この作品を開始する前に描かれたイメージイラストが、「まんじゃぱ」VOL.2で掲載されていました。イラストは3点、「マラヤ」(このイラストはコミッカーズに製作過程が掲載された)、もう一点が没になったイメージイラスト。それに、銃を持った青年が単独で描かれたイラストが1点。最後の1点が、「韃靼タイフーン」の卓馬に昇華されていったのではないか?と思われます。 2004/04/18 shinji
【あらすじ】 ●200×年北海道・函館。一隻のロシア船「ウスリー号」が事故で爆発炎上。積荷から猛毒ガスが発生、住民は避難を始めパニックに陥る。そんな中、主人公 荒脇卓馬は廃船となったロシア人らしき謎の少女に出会う。幼馴染「デコ」と共に少女を助けようとする卓馬に謎の武装集団が迫る!思わぬ事件に巻き込まれた卓馬とデコの運命は・・・。 【簡単コミックデータ】 ●2004/04現在、MFコミックス版と文庫版が新品購入可能です。(まだコミックス版が書店に在庫されているのに文庫版が出版されるのは少しサイクルが早い気もしますが。)大きな書店なら店頭に置いていることもあるでしょう。しかし、たいていの場合、取り寄せるケースが多いかと思われます。現在も在庫はあるようですのでネット通販で買うほうが到着は早いかもしれません。中古も流通しています。
【関連リンク】 ■だったん 【韃靼】とは? 八世紀にモンゴル高原にあらわれたモンゴル系の一部族。のちモンゴル族の総称となり、明代では北方に逃れたモンゴル帝国の子孫を呼んだ。 ■韃靼タイフーン関連のリンク・・・しかし、生存していた?アナスタシアとか、アラハバキ神とか韃靼蕎麦とか色々ネタはありそうなものの、目ぼしいサイトが見つかりませんでした(言い訳) もうちょい時間あるときに探してみますね。 ![]() ![]() ![]() |