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マラヤ安彦良和 (著)
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士師の矜持にかけて! ●文明の崩壊した未来SFを描く「マラヤ」。この作品は「電撃Adventures」というTRPG情報誌に連載されていましたが、1998年6月にTRPGの衰退と共にわずか4年半で休刊(撤退)、同年12月に創刊された「電撃hp」というライトノベルを扱った書籍に移籍しVol.5から再開されました。つまり3巻の終わりから4巻開始までに1年以上間隔があいていることになります。その間何をされていたかと言うと、「王道の狗」とか「韃靼タイフーン」の連載をされていました。 この時期の安彦氏は「ジャンヌ」「イエス」などのカラー作品に傾倒しており、「マラヤ」も同様にオールカラー形式で製作されています。これは香港の作家「司徒剣侠」を始めとしたカラーコミック作品にカルチャーショックを受けた安彦氏が、「日本では何故カラーコミックを描く作家が少ないのか? なら自分が描いてしまおう」と始めたのがきっかけでした。しかしながら氏曰く、色付きはしんどいしお金にならないのがわかった・・・と。3編のカラー作品を描いて実感されたようです。(やはり生産性はモノクロ原稿の半分に落ちるようですね) そのためか、オールカラーでの作品は「マラヤ」以後描かれていない。が、ファンとしては氏の美しいカラー描写には、やはり魅せられてしまうのだ。2004年現在、連載中の「ガンダムTHE ORIGIN」でも数ページのカラーは入れてもらっているので非常に嬉しいのだが、あれがオールカラーならもう感激してしまうのだがなあ~。ORIGIN完結後に完全版を出すなら、是非追加作業でオールカラー化にしてほしい。 さて少し話の軌道がずれてしまったが、「マラヤ」の内容について。この作品はTRPG情報誌での掲載とあって、この雑誌の購買層を意識した、「荒廃した未来世界」という舞台設定になっており、長年歴史系コミックを生業としてきた安彦氏の久々のSFファンタジー作品である。コミックでSF系は「ヴィナス戦記」(1987年~)が最後でしたから実に10年ぶり(!)くらいの画期的な出来事でもあります。 尚、舞台設定についてはオーソドックスな岩と砂漠の荒涼とした風景に大小の奇怪な生物が跋扈する世界。この点では従来のRPG系を元にした冒険ファンタジーや未来SFモノの世界観とたいした差はなく、安彦氏独自の特別な工夫は感じられない。この作品の大きな特徴は男と女が別れて生活圏を形成している点で、物語はこの女性と男性の対立=「秩序と混沌」をテーマとして描かれます。 この世界では、「男性」はゾド(災厄)と呼ばれ、世界を崩壊に追い込んだ元凶、破壊と混沌の根源として位置付けられ、徹底的に排除されるか、子孫を残すための道具的な存在として利用されるかでしかない。女の帝国はハルワタート(完璧の城)と称し、生まれた子供は男女を選別し、女児は集められ幼少から洗脳教育が施される。彼女達は帝国を守る戦士として教育され、能力によって階級的な制度に落とし込んでいく。 これは、徹底した管理で災厄の根源である「男性」を封じ込め、「過去の災厄を再び繰り返さない」という平和や秩序を尊ぶ考えから生まれた制度であったのだろうが、やがて時代が過ぎるにつれ帝国の権威や、封建制度を守ることに趣旨がすりかえられ、権力が支配する世界へとなっていく。 主人公である「マラヤ」はこうした世界で生まれ、洗脳教育を施されたエリート戦士「士師」という立場にいたが、聖母選任を拒否したため、役女として最下層の強制労働現場に落とされてしまう。戦士としての立場も階級制だったが、役女として落とされた最下層でも「力の支配」は存在していた。こうした窮地を自らの力で切り抜けていくマラヤに、彼女に嫉妬心を抱く元同僚のデボラの反逆が追い討ちをかける。 マラヤは放逐された男性達が築いた「ゾドの砦」で「ゾドの父(アバ)」との出会いや、超越的な力を持つ人類が畏怖する「ドラゴン」との邂逅、野心に燃える第三勢力「ボーデッカ」の存在を通じて、ハルワタートの虚飾・偽りの姿を知っていく。男も女も関係なく、等しく人間の中には混沌の種は息づいている、と。畏怖する対象が無ければ限りなく増長していく人間の業、欲望と力の虜にならず自らを律するココロを忘れるなと物語りは語られている。 この作品はこうした重厚なテーマのわりには、何故かその重さを感じさせないところがある。たぶんそれは、総ページ数が少なく話の展開が非常に速い事と、ストーリーの展開上で過激な描写が少なからずあることも影響しているのだろう。読者の興味が過激な描写に注がれてしまい、テーマの重さを拡散してしまった感がある。また、過激な描写部分については雑誌編集サイドからの要望だったのかも知れないが、一部女性読者や低年齢層にとってはちょっと引いてしまう内容なのではないか?(まあ、そもそも女性読者層は非常に少ないだろうけど・・・)と思われ、せっかくの作品も読者層を制限してしまう結果につながっているのが残念だ。 一方、この作品の一番の売りであるビジュアル面は言わずもがな、美しいカラーが圧倒的だ。多少大ゴマが目立ったり、マラヤの身体がムチムチすぎる気がしないでもないが、、安彦アングルがビシッと決まっているコマなんかはやっぱりカッコイー!と思ってしまう。キャラクターや物の動きを表現する効果線は漫画の基本ではあるが、安彦氏は毛筆で描いているため効果線をあまり使わず動きを表現する。それはコマの中のキャラや物のアングルと、連続するコマとコマのつながりによって動きを表現しているわけだが、それでも効果線に負けず劣らずキャラクターの躍動感を表現できていると思う。個人的にはマラヤの殺陣のシーンの動きなんかが気にいってます。 また、登場人物については、マラヤの動きを中心に描かれているためか、男性キャラの存在感が、ゾドの頭目(アバ)以外は非常に薄く感じる。特にパヤットなんかはうだつがあがらない感じが漂っていて、登場初期のイメージがどんどん落ちていくのが悲しい存在だ。異色的な存在として「ドラゴン」が登場しているが、やはり「ドラゴン」はTRPG読者層にアピールするために必要なファクターで外せない存在だろう。人類が畏怖する存在として「ドラゴン」を物語にハメ込むのは悪くない案だけど、竜がどのようにしてこの世界に生み出されたのか細かい説明は省かれている。ここのところを描き始めるとまた物語りは違う展開になったかも知れないが、安彦ドラゴンは個人的にも気に入っていたので、もう少し物語に絡んで存分に活躍して欲しかったなあ・・・と、心残りなところがあります。 最後に、エンディングの評価については物語の落しどころといい、ありがちで先が読め、こじんまりと纏まりすぎな気がしますが、一応のハッピーエンドとコンパクトに完結できている点では評価できます。最大の問題点としては、一冊あたりのコストが非常に高くつくこと。一冊90ページ程度で1200円~1600円では流石に購入層が限られてしまう。ディープな安彦ファンならまだしも、ちょっと読んでみようかなというライト層が、気軽な気持ちで読むことができないのが非常に残念な点だ。 今回の「マラヤ」は安彦カラービジュアルを堪能できる一品として貴重な作品であります。が、コスト的な面や、過激な描写などの多少の問題点から星3つの評価といたします。 2004/05/23 shinji
2005/11/27 改 shinji 【あらすじ】 ●文明社会が崩壊して久しい荒涼とした未来、生き残った人々は再び同じ災厄を起こさないためにも、破壊と欲望の権化たる「男性」を社会から抹殺し、女だけで形成された秩序ある世界を構築していた。「完璧の城」と呼ばれるハルワタートで生まれ育ったマラヤは、次代の聖母に選任されたが、垣間見た先代聖母の肥え太ったおぞましい姿や取り巻きの種馬男達に激しい嫌悪感を抱き、聖母就任を拒否する。士師の任を解かれ最下層の強制労働部屋に落とされたマラヤには、更なる困難が待ち受けていた。マラヤの運命はいかに? 【簡単コミックデータ】 ●2005年12月現在、メディアワークス版は一般の書店でまず見かけることはないはず。チクマ秀版社より全1巻にまとめられた再販版が出ていますので、値段が張りますがそちらをお求めになることが出来ます。
【関連リンク】 ■TRPG(テーブルトーク・ロール・プレイイング・ゲーム)とは?複数人が集まって、ルールに基づき進めて行くゲーム。ゲームプレイヤー同士のやり取りが面白く、ゲームのまとめ役ゲームマスターの力量によっても左右される。
【おまけ】
■この作品の主人公「マラヤ」はフィギアにもなっていたりします。たまーにヤフオクなんかで売りに出ていたりしますが・・・具体的にどんなのかというと、以下のページで紹介されてますので興味のある方はドゾ。
■「マラヤ」を読むと思い出す映画があります。
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