安彦作品ガイド


テングリ大戦

安彦良和 (著)

初出 第1巻:角川書店「野生時代」1990年10月号掲載
第2巻/第3巻/第4巻:書き下ろし
「楽天フリマ」で検索

「テングリ大戦」
ジャンル
キーワード
・大陸/草原/島国
・ファンタジー
・黒シャーマン
・神話/神通力
・戦国時代
・旅/冒険
オススメ度 まあまあ ★★★☆☆
出版データ詳細 出版データへ株式会社角川書店 カドカワノベルズ版



天界を二分する天空神の戦い
西天神の子、ホロルは戦いの旅へ

●安彦氏の4作目にあたる小説作品です。この作品の第一巻は、「野生時代」(1990年10月号)に掲載されたものを単行本化し、第二巻以降は書き下ろしで刊行されております。第一巻の執筆時期は「鋼馬章伝」第5巻刊行後で、かつ「ナムジ」第4巻を描いていた時期と重なり、結構な濃密スケジュールの中で書かれた作品だと推測されます。

この物語は、過去の作品「アリオン」がギリシャ神話、「蒼い人の伝説」がドゴン族の神話、「ナムジ」が古事記をベースにしていたように、今回はモンゴルの神話を下敷きにしていますが、まず物語を紹介する前に、作品を未読の方のために物語固有のキーワード「テングリ」を解説しておかなければならないでしょう。

■「テングリ」とは?
モンゴル神話での神様、「天神」のこと。

遥かな昔、至上の天神(ハン・テングリ)のもと、九十九のテングリは天界にともにあった。冥界の王メルリクはハン・テングリと交わりを求め、天の精霊を捕らえて地底に繋縛し、精霊たちがやがて竜巻となって天に逃げるのを追った。メルリクは天界を駆け巡り、邪悪な吐息を吹きかけてあまたのテングリを穢れさせた。

ハン・テングリは大いなる石山を築き、ガルーダとエルヒイ・メンゲルが、メルリクとその配下の魔物達と闘い地界を割って冥界に追い払った。その後ハン・テングリは地の割れ目に深く水を満たし、割れ目は太湖となって地を東西に分けた。ハン・テングリはまた天をも区画して白い乳の河を流しこれが銀河となった。

ハン・テングリはメルリクの息に毒されたテングリを河の東にと遠ざけた。黒いテングリその数四十四。残った西天の白いテングリは五十五。以後東天のテングリはハン・テングリの為す所を恨み、隙を見ては天の白い河を越えようと謀り西天の善きテングリに争いを仕掛けた。東天のテングリは天にありながら冥界のメルリクと尚通じあった。だから東天のテングリは地界に棲む生き物達を冥界のメルリクに引き渡そうとするのである。

なんか、小説の冒頭をほとんどそのまま引用してしまったけれども、主人公の「ホロル」はこの西天テングリに連なるサハ族の末裔という設定だ。

■物語について

さて、この物語をはじめて手にとり開いた瞬間、いきなり上記の「サハ族の伝説」が書き連ねてあり、思わず「蒼い人の伝説」を思い出し妙な不安に駆られてしまった。というのも「蒼い人・・・」で語られた伝説の表現がとても(自分にとっては)イメージしにくく、読んでる最中に何度も眠りに落ちてしまったプチトラウマがあるからだ。どうも「誰それが誰の子供で・・・云々」と固有名詞だけが延々連ねてある文章には耐えられないようだ(まあ堪え性がないものですから・・・)

で、のっけから苦手な伝説で始まったので、「うっわ、こりゃダメかも・・・」と思っていたが(実際最初の2ページでなかなか読む気が起こらず、何度も放置して読むのが進まなかった・・・)、最初の伝説部分をなんとか切り抜けると、以降はスルスルと読み進めることができた。

物語は安彦作品らしく、とてもスピーディーに展開していく。展開が速すぎて、ホロルの宿敵と思っていた敵方の親玉がアッサリと第一巻終盤で倒されると(あッ・・・ネタバレ・・・)、え??こんなに早く倒してこの先どうするんよ?とビックリしたくらいだ。こうしたストーリーの意外性と、個性豊かな登場人物達との出会いと、宿敵シュラムとの闘いが語られ、ファンタジー性豊かなストーリーに飽きることなく読み進めることができる。

そもそもこの作品の前評で「コミカルな作品」と聞いていて、「安東」チックな展開なのだろうか?と不安感があったのだが、気になって読めなくなるようなことも無く、登場人物達のコミカル調のかけあいなど、作者が楽しんで書いているんだろうなという印象だ。私自身も、1・2巻はとても楽しめて読めた。しかし、残念ながら3巻以降、ホロルが宝剣を失ってテングリの神通力も共に失っていくあたりから、物語の勢いは失速していくように思う(私自身がたまたま忙しく、2巻を読み終えたあと日を空けてしまったのがまずかったのかもしれない)

後半の失速の原因は、ホロルの神通力が失われていき、非力な人なってしまったことで、話に面白みがなくなってきたこと(まあそれでも活躍はするわけだが)、また一方でホロル達が旅の途中で加勢する国ごとの登場人物が多くなり、展開が複雑になってきた点。話が長くなってくると、私のように一気に読む時間がとれず、チビチビ読むタイプだと、あれ?いまホロルはどこにいて誰と戦ってるんだっけ?と、よくわからなくなってくるのだ。

また、4巻では大陸から島国倭国へと舞台は移るのだが、物語のスケールがだんだん小さくなるような印象を受けるとともに、今までのホロルの仲間も物語の最後のほうでしか出てこなくなり、今までの彼らの存在は何だったのだ?と思えてくる。

そして物語のラストは、ページ数の関係なのか、はやく終わらせたかったのか、ものすごい勢いで端折られる。肝心要の宿敵シュラムとの決着なんか一気に終わって、はぁ?シュラムはどうなったンよ??と、あっけにとられてしまったほどだ。落ちのつけ方はもう少しなんとかして欲しかったが、もう1巻ほど書くことができれば、シュラムとの決着も満足行く描写が出来たのだろうか・・・?。あの終わり方では、ほとんど見せ場の無かった妹のカチャルの存在が生かされず、登場人物を余すところ無く使い切ったようには思えない。ここは非常に残念な点だ。

全体を通して、1・2巻のストーリーは充分面白いのだが、序盤でホロルの友人が忽然と消え(語られなくなる)、ん?どこいったン??といった点や、「関羽」「スサノオ」なんかが半端に物語りに絡んだりするところ、終盤の端折りやシュラムの後始末など、難点がところどころ見受けられ、後半から終盤にかけての失速感が残念。平均してオススメ度は3点といったところ。

・・・しかし、4巻に出演する「スサノオ」の顔は、「ナムジ」に出てくるスサノオそのままの顔なんだけど、中身は全然別人だよな。イメージが崩れていく・・・(笑)

2004/06/13 shinji 



【あらすじ】

●はるかな昔、天界を震撼させる争いがあった。争いの後、東西に分かれた天空神達(テングリ)は永い冷戦の時をおくっていた。サハ族の部族長の息子「ホロル」は、東の邪悪なるテングリの使い「シュラム」に同朋や父を殺され、母と妹を連れ去られた。黄金氏族の族長の血を引く、運命の子ホロルは、剣を取り戦いの旅に出る。それは伝説の天空大戦の幕開けだった・・・。



【簡単コミックデータ】

2004/06現在、絶版で新品は入手不能。古本のみ流通。今のところ古本屋やネットで探すしかありません。(尚、過去に(2002年10月頃)徳間書店から出版されるという情報が流れていましたが、あれは「鋼馬章伝」の間違いでした。)
株式会社角川書店
■カドカワノベルズ
■全4巻
■サイズ:新書版
■補足:中古のみ流通
(1)1990年10月25日:ISBN: 4-04-780807-5
(2)1991年02月25日:ISBN: 4-04-780808-3
(3)1991年06月25日:ISBN: 4-04-780809-1
(4)1992年02月25日:ISBN: 4-04-780810-5




【関連リンク】
残念ながら「テングリ大戦」に関する情報は、ほぼ皆無と言っていいでしょう。キーワードで関連しそうなページを探してみました。


BACKHOMENext