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安彦良和-WORLD ![]() ![]() |
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●この「ヴィナス戦記」は主人公が二人存在する、異例の作品となっている。主人公が二人といっても、一つの物語で、それぞれが共演するというわけではない。一つの大きな陰謀の流れの中に、二人の立場の違う若者(ヒロ&マティウ)が、それぞれのエピソードで関わっていくという方式だ。したがって、ヴィナス戦記自体は、二つの物語から成り立つ、今までにない面白い構成になっている。 前半は無目的で自虐的な若者が、軍にスカウト(ありえるのか・・・?)され、アフロディアとイシュタルとの戦争に巻き込まれる話。この物語の舞台は実は、【金星】だったりするわけだが、一時的に人の住めるようになった金星で、人々は再び人の住めない世界へと逆戻りするのではないか?という不安の中、未来への希望を信じられない気持ちから、あきらめ・他人を信じない気持ち・地球からの支配に対する不信感が渦巻いている背景がある。 よく言いまわされる、世紀末の混乱(新世紀になっても混乱してるけど)みたいなものが、この世界でも蔓延しており、そんな世間の風潮に染まった無目的で行き場のない若者が、何かに血をたぎらせたいと切に願い、軍に身を任せ戦場に赴いていく。主人公はこの時、なんだっていいんだ、と投げやりに言いながらも、無意識に自分の生甲斐や居場所を求めていることに気が付いていない。やがて主人公は、人命が消耗品扱いされる戦場で、ライバル的存在である部隊リーダーとの反目や、友人の死などを通して、生きることの不思議さ、素晴らしさを実感していくのだが、それまでの展開を起伏を持ってスピーディーに描いており、なかなかの力作に仕上げている。 前作、「クルドの星」では登場人物の動機の弱さを指摘したが、この作品ではそういった部分で気になるところは余りなかった。強いて言うならば、地球から派遣されている査察官「ヘレン」が、主人公の窮地を特権でもって救ってしまうのは少々ご都合主義的かな?と、穿った見方もできる。この「ヘレン」は、前半のヒロ編と、後半のマティウ編との橋渡し的役割の重要なキャラクターで、わりと行動的に主人公の前に現われ、それなりの仕事をこなしているわけだが、このキャラクターの視点で、全編を通じたストーリーテラーに据えれば、前半・後半の一体感が増し、効果的だったかもしれない(私見です) さて、後半のマティウ編では、前半と一変して視点が戦勝国イシュタル軍内に切り替わる(ヒロ編はアフロディアでの話)。主人公は民間人上がりではなく、士官学校出の推尉である。彼は政治的陰謀を狙う「ラドー少佐」の傀儡となっている「ルイザ」と関わったことから、ヒロの立場とは逆に士官から一転、民間人となり、追われる立場となってしまう。 主人公マティウは、「ルイザ」を救うために権力者「ラドー」にすら臆せずタンカを切る。世界の汚い一面を真っ向から拒否するその姿は、青臭いまでに正義感に溢れ、純粋なのだが、これは安彦作品に共通する一つのテーマなのだろうか。御大の作品にはこういった、青臭い若者が登場して困難に巻き込まれ、翻弄されていくケースが多く、作者の持っている若き日の一面(理想)が垣間見えます。 マティウ編ではアクション性が強く、場面も次々に変わり、先が読めない展開に読者は飽きることなく世界に引き込まれてしまう。登場人物も表情豊かで魅力的(特に「ルピカ」の崩れ方がいい)なので、ドロドロした物語な割に、どことなくコミカル調で物語の悲壮感が和らいでいる。そしてベースとなる物語(ラドーの陰謀)も破綻なくまとめられていて、非常に完成度が高い作品だと感じます。 話が逸れますが、この物語を読みながらふと思ったのだけれど、金星をスペースコロニーに置き換え、「地球政府との反目」「政治的陰謀」「若者の青春群像」「生の問いかけ」というシュチュエーションをみると、なんとなくどっかで聞いた話に思いませんか? ちょうど、1985年に「ガンダム」の続編「Zガンダム」が製作・放映されていました。安彦御大は、「Z」にはキャラクターデザインのみでしか参加しなかったのですが、その放映は見ていたようで、物語がよく理解できないと発言していたそうです。以後、安彦御大は「ガンダム」以降の作品は続編として否定しつづけいるわけですが、この「ヴィナス戦記」は、もしオレが「Z」の製作に加わったのならこんなイメージにしたゼ、という「Zガンダム」という作品に対するアンチテーゼ的な位置付けの意味も、この作品にはあるのかも知れません(スイマセン妄想です:笑) 最後に、マティウ編のラストについては賛否両論で、オレもラストだけは少しガッカリだったんだけど、何事も青臭い理想論だけでは世の中は動かない、というヤス御大の現実的メッセージが、ここには含まれているのかも知れません。それはさておいても、若者の輝きを描く作品としては秀作です。読んでみて損はないはず、オススメ★4つです。 【あらすじ】 ●西暦2003年5月、3000年ぶりに内惑星系を訪れた巨大な氷の惑星-P-12は金星の黄道面に激突、金星はその相貌を変えた。厚い大気のベールを剥ぎ取られ、砕け散った数百兆トンの氷塊の大半は、それと化合して低地に強い酸性の海をつくった。ゆったりとした自転は幾分加速され、224日の公転周期にきわめて近い数値を数えることとなる。 一瞬の事件が金星をまぎれもない地球の兄弟星へと変えた。西暦2012年、第一陣の移民団がイシュタルの大地に下り立ち、やがて72年が過ぎた。西暦2083年物語は始まる・・・ 【ヒロ編】アフロディアの首都イオ、金星での希望の見えない日々の鬱積をバイクゲームにぶつけていた17歳の少年ヒロキ・セノオは、そのバイクスキルと、命知らずのスピリットに目をつけた軍隊にスカウトされ、民間人のまま特殊部隊HOUNDの一員となる。やがてイシュタルのアフロディア侵攻に切り札として当てられるHOUND部隊。ヒロは果たして生き延びられるのか? 【マティウ編】イシュタル軍の見習い士官マティウ・シム・ラドムは、想いを寄せていたルイザが、イシュタル掌握に野望を燃やす、ラドー少佐の傀儡であることを知らず近づいてしまう。それを快く思わないラドーは、マティウを陰謀の罠に巻き込んでゆく・・・ 【キャラクターについて】 「ヴィナス戦記」限ったことではないが、登場するキャラクターの顔ぶれは、なんと言うか、いつもと同じ(笑)なので、全然安彦作品を知らない人が、続けて何作品か読み進めていると、食傷気味になる人が出るかもしれない。オレ的には全然問題ないんだけどね。 要は考え方次第だと思うのです。かの手塚治虫でも同じキャラクターが、別の作品で活躍したりしてますよね。現実の俳優でも、色んな作品に違う登場人物として出演したりするわけです。オレは、安彦漫画も同様だと考えています。カミーユ・ビダンが「クルドの星」でジロー役を、「ヴィナス戦記」ではヒロ役を・・・はたまた、アムロ・レイがマティウ役を演じている。そんな風に考えれば違和感はカンジないし、なんだか読むのが楽しくなりませんか? 【書籍データ】
【映画】 ●この物語は安彦御大自らの手で映画化されています。映画ではヒロ編が使われている模様(実はみてなかったり)。原作と見比べればより深く楽しめるかも
【おまけ】 ●この作品、実はファミコンゲームとしても商品化されているのだそうな!アリオンも同様にゲームが出ているそうだけど、出来そのものは・・・今はどちらも入手困難か? 手に入れてもしょうがないんだけれども(笑) |
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