![]() |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
安彦良和-WORLD ![]() ![]() |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
01.作品データ主役を喰う脇役、プロメテウスの活躍■ギリシャ神話をモチーフに、主人公アリオンの成長と冒険を描く異色作。神話の神々であるゼウスやポセイドンなどが、人間として生々しく描かれている姿が興味をそそる。実際、天上の神であるゼウスは陰気臭く、猜疑的で狡猾な策士として描かれたり、ポセイドンは力ずくで欲しいものを全て奪い取らねば気がすまないオッサンとして描かれたりと、赤裸々な人間ドラマを物語の主軸として据えている点が面白い。 この神話の人間ドラマ化というテーマは、御大の以後の作品である「ナムジ-大国主-」「神武」などの古事記伝シリーズに引き継がれ、氏の歴史漫画家としての源流になる作品となるのだ。 このアリオンは、流石に20年以上も前の作品で、漫画家としての処女作でもあるため、現在の絵柄と異なることに気が付くだろう。特に初期の頃はアニメ的手法が入った、他の漫画家に見られない、筆が表現する柔らかで丸みを帯びた独特なタッチがうかがえる。枠線の取り方が独特すぎて読みにくい、と言う意見もありますが、一読する価値は充分あるでしょう。 一方ストーリーはどうなのか?、という点ですが、1000枚以上の長編で、氏の代表作でもあり、腰を据えて読める出来栄えに仕上がっている。しかし、主人公のアリオンが最後まで周囲の人々に騙され利用され、振り回されて落ち込む姿にイライラくる人も結構多いのではないでしょうか? 最後に至っては、自分の力でなく人に助けられてラスボスを倒す主人公らしからぬ姿に共感できない方もいるかもしれません。 こんな情けない主人公ですが、さらに彼は脇役プロメテウスにその主役の座を食われてしまいます(笑) 第4巻「プロメテウスの章」は、一連のアリオンの物語に組み込まれながらも、プロメテウスの物語としても読める、一冊の本として独立してしまっているのです。したがって4巻では扉絵以外、ほとんどアリオンが出てこない(笑)という凄い展開になっています。主人公が出てこない漫画など、今まで読んだどの漫画でもありえない話なので、当時の子供心に「なんじゃゴラァ!」と、驚いたりした記憶があります。 しかしながら、「アリオン」全体の物語を構成する上で、このサイドストーリーは避けて通れない物語なのです。そう、実はこのプロメテウスこそが、物語の裏主役なのである!(個人的意見です) 幼くして父親に捨てられ、頼った母にも騙されたゼウスが復讐のために暴走し、ついには友人プロメテウスをも殺そうとする。そして、プロメテウス自身も、後先を考えず自分の想いを貫いたばかりに大切な人を失ってしまう。 プロメテウスはゼウスに言う、「生きることの勝利者になろうとした君は、結局は、生きるということの意味をすら知ることなく朽ち果てていく」・・・と、そうした二人の過去があり、時を経て黒の獅子王が語る、「自分自身のことであってさえ、人に自由などいくらもない、だからこそもっと強くなれ!」強くなって他人に振り回されずに自分の信じる道を行き、そして自分の答え(人生・運命)を見つけるのだと、アリオンを諭す獅子王の言葉に重みが増してくるのだ(個人的解釈です) こうした、プロメテウスの怒りと哀しみ、切ない思いが読者の心に強く響き、揺さぶり、物語は大いに盛り上がって終章へと突入する。多くの伏線が一気にラストへと収束していく運びは実に素晴らしく、氏の実力の一端が垣間見れる。 そして、さあ、ラストで感動の嵐が待っている!!と、読者は一気に盛り上がるところなのだが、・・・ところが・・・ここでストーリーは急速に尻すぼみになります。ラストに待っているのは、あまりにあっけないエンディングでした。ラストの描き方は、実に詰め込み台詞で、ごくごくありふれたネタ(失礼かな?)を持ってこられて一気に気持ちが萎んでしまったり・・・。 氏の作品感想で、オチの描き方が上手くない、とよく聞きますが、この代表作たる「アリオン」も例に漏れません。・・・と、書いてしまうと未読の方々の読む気を削いでしまいますか・・・?(スミマセン) でも、子供心にラストはもっと練って欲しかったなあ、ここで最高に盛り上がれば名作になったのに、と口惜しい思いをしたものです。残りページの関係で辛かったのかも知れないけれどね。 色々と勝手なことを書いてしまいましたが、まだ未読の方は、是非一度手にとって、ジックリと世界観や絵のタッチ、物語の構成を楽しみながら読んで欲しいですね。 2004/05/03一部修正 shinji
【あらすじ】 ●トラキアの外れに、盲目の母デメテルと静かに暮らすアリオン。ある日、突然に来訪した叔父ハデスは、アリオンを偽り、地の果て冥界へと連れ去ってしまう。ハデスは母デメテルの目の病の原因は、オリンポスに君臨し同じく叔父にあたる、ゼウスにあると告げ、暗殺を教唆するのだった。叔父たちの過去の経緯を知らないアリオンは、ハデスの言葉を鵜呑みに受け止め、やがて成長した彼はギドとともにオリンポスへと向かうのだが・・・ 【コミックデータ】 ●今所持してるのは徳間書店の初版本ですが、流石に20年経つと経年劣化が激しいですね。もともと紙質が良くないのを使ってることもありますが、日の当たらない場所に保管してても、紙が焼けたようになっています。その点が残念。
【神話の中のアリオン】(2004/5/3修正)
デメテルがペルセフォネを探してさまよっていた時、彼女に恋したポセイドンが後を追った。アルカディアのテルプーサで、デメテルはポセイドンを避けるために馬に変身し、オンコス王の持ち馬にまぎれた。しかし、ポセイドンはごまかされず、自ら馬に変身して彼女と交わった。そして、神馬アリオンとデスポイナが生まれた。 アリオンは最初オンコス王の所有であったが、後にヘラクレス、アドラストスの乗馬となった。テーバイ攻めの際には、その速さによってアドラストスを救っている。 【映画版アリオン】 ●この作品は完結後、1986年に映画化されています。残念ながら見る機会が無く、ビデオでさらっと見ただけで記憶に残ってなかったりしますが、原作とはかなり違うストーリーで賛否両論だったと思いますが、見比べてみるのも楽しいと思います。
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||