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安東 -ANTON-

安彦良和 (著)

初出 ■コミックNORA 掲載
第1巻:92年9月号・10月号/93年3月号・4月号
第2巻:93年10月号・11月号/94年1月号・2月号
第3巻:94年10月号・11月号・12月号/95年2月号・3月号・4月号
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「安東-ANTON-」
ジャンル
キーワード
・鎌倉幕府
・ファンタジー
・蝶/呪
・戦国時代
・旅/冒険
オススメ度 まあまあ ★★★☆☆
出版データ詳細 出版データへ株式会社学習研究社 ノーラコミックスDELUXE版


知られざる歴史のひとコマが今始まる・・・

●「安東」は「神武」書き下ろしと同時期('92〜'95年)に、コミックNORAに掲載されていた作品です。作風はちょっとコミカル風味でファンタジー(?)色が混ざった異色作。ナムジ・神武と真面目路線で描いてきた歴史漫画をちょっと力を抜いて、一風変わった角度で描いてみようという試みか。同じ時期(といっても90年頃だが)に原哲夫氏が「花の慶次」という異色時代モノを描いていたし、そういった影響があったのか・・・いや、それはないか・・・。安彦先生はしばらくマジメ路線で描いていたかと思うと、ごくたまに脱力系の作品を描いたりする。脱力系には「Cコート」「テングリ大戦」などの作品や、以降は少し期間が空いて「韃靼タイフーン」などもやや脱力が入っていたりする(と思う)のだが、どの作品も(諸般の事情はあろうが)やや中途半端な印象が拭えないように思えます。

さて、この物語はあの「源義経」の忘れ形見、星若丸が両親の仇を討つため十三安東氏や、従者である弁慶達の協力を得て、仇敵鎌倉(源頼家&北条義時)を打倒しようとするストーリーである。しかし、実際に鎌倉勢力と直接対決となると星若サイドの戦力は小さすぎるように思う(一海賊扱いだし)。序盤では庇護を受けていた十三安東氏のバックボーンを失い、中盤では同じく身を寄せていた後渤海(渤海国が滅びた後、遺臣が建てた国。後渤海1018年滅亡とあるので100年ほど時代がずれてる気がするが・・・??)が金に攻められ窮している。再び鎌倉に舞い戻っても、ゲリラ的に頼家を襲撃する方法でしかチャンスを見出せない星若勢なので非常に心もとないのだ。

したがって、全体にこじんまりとした、地味な展開に終始するものと当初は思われた。が、物語はよくわからない方向へとぶっ飛んでいく。第一巻で津軽(十三安東)を出た星若丸は、第二巻で後渤海へ渡りそこでチンギスハン(!)と出会うのだ。この辺は義経伝説(義経が北海道からモンゴルへ渡りジンギスカンになったっちゅう伝説・・・そういえば星野之宣氏著「クビライ 世界帝国の完成」もそんな伝説をベースにしてたような・・・)に少し影響された部分があるのかも知れないが、一読者としては突拍子も無い展開に面食らった状態。しかも、北条義時が先回りして金国とつながっていたりするしで、何で北条氏が金国と和を結ぼうとしている描写がこの物語に必要なのか、よくわからんかったりします。

この第二巻のエピソードが以降の話の伏線になってたりすると、またそれも面白い展開なのかも知れないが、実際には何の影響もないので、なんだったんだあのエピソードは・・・と頭の中が混乱する原因に。でも一つ、後渤海国が金の勢力に攻撃される際に星若達が加勢する場面が、源平合戦「鵯越の逆落とし」を再現してるのは面白かったかもしれない。この「逆落とし」シーンで思い出したのだけど、ロード・オブ・ザ・リングス「二つの塔」でも使われてたよね?そうそう、ラストでガン爺が味方連れて駆け下りるシーンです。近くの席に座ってたご老人方が「義経じゃ・・・」「義経じゃ・・・」とつぶやいていたのが思い出されます(関係ない話でスマソ)

この第二巻の寄り道で、あらぬ方向へ物語が展開しましたが、第三巻ではその話がまるで無かったかのように元の鎌倉勢との対決に戻ります。物語がアッチコッチに飛んでしまうのが、この作品の問題点であるのですが、この辺は読者側の頭の切り替えで対応するしかありません。むしろ突拍子も無い展開を楽しむ余裕が必要でしょう。

一方、登場キャラクターについてはどこか手塚治虫氏の影響が見受けられるように思う。例えば北条義時のお面姿=「どろろ」の「まいまいおんば」の般若の形相を思い出す。ちなみに、この「まいまいおんば」は蛾の妖怪だったかと思うのだが、これも北条義時の「蝶」の呪と類似点がある。後は修善寺党=「火の鳥・太陽編」で出てくる刺客衆と類似しており、単なる shinji の思い過ごしなのだろうが、どこか既視感が残るのだった。

また、主人公である星若は行動力はあるものの、実力が伴わず敵に負けてしまったり、捕まって監禁されたりする(この辺は安彦作品の王道パターンなのだが)ところは、今までのキャラとあまり変わらないような気がして、魅力的とは言いがたい。脇をしめる弁慶・ビッケなどのキャラクターもほとんど見せどころ無く、コマをチョロチョロしているだけで、コレは!という個性がなかったように思う。一人、モンゴルキャラがいたように思うが、この辺は「テングリ大戦」の思い入れが残っていて、キャラとして出してみたい想いがあったのかも知れない。ただ一人、例外として弥生姫だけは気に入っている。性格や立ち回りがどうこうというわけではないのだが、安彦先生が描くスレンダー・スタイルの女性はもしかしたら弥生姫が最後ではなかろうか?と思えるからだ。

最近(現在2004年)の安彦先生が描く女性キャラはどうにもムチムチで太すぎるんじゃ?という印象があり、昔のホッソリ体型キャラはもう描けないのでは・・・?と思うくらいだ。shijnji 個人としては、今のムチムチ体型キャラより過去作品のスレンダー体型キャラのほうがスキなので、描き方を戻して欲しいなあと思うのだが、そう思っているのはオレだけなのだろうか?・・・ていうか、どうでもいいスか?こういうハナシ。。。_| ̄|○

最後に、物語全体を通してエピソードの締め方が古いように感じる。必ずラストで主人公が遠くを見て物思いに耽りながら終了するパターンは、最近の少年誌でもあまり見られない終わり方のように思える。その古典的なパターンをあえて狙って描いたのかも知れないけれど、どことなく適当に力を抜いてまとめたカンジが読後感として残ってしまうのが辛かった。

まあ、真剣に描くとしたら「義経」自体を主人公に据えて描くほうが、話としても描きやすかっただろう。あえて息子の「星若丸」を使ったのは、よくある物語をなぞるようなことをしたくなかった安彦先生の冒険心からだと思いたい。力を抜いてクルクル展開する物語を楽しむのが、この作品のベストな鑑賞方法だと思う。もし手に入れる機会があれば、あまり肩肘張らず力を抜いて読んでみてほしい。

ちなみに全然関係ない話だが、2005年NHK大河ドラマは「義経」だそうな。義経役にタッキーが抜擢されたそうだが・・・ジャニを使うのは若年層離れへの対策だろうか・・・?

2004/08/01 shinji 



【あらすじ】

●1189年(文治5年)奥州・平泉にて自決した源義経。しかし義経には忘れ形見が残されていた・・・遺児の名は星若丸。忠臣弁慶とともに義経党を引き継ぐ星若丸は、鎌倉から国奸として追われる身だが、十三安東氏の協力を受け亡き父・母の仇を討つため鎌倉幕府、源頼家・北条義時と対立するが、星若はやがて北条氏の黒い陰謀を知ることに・・・。



【簡単コミックデータ】

2004/08現在、絶版で新品は入手不能。古本のみの流通となります。今のところ古本屋やネットで探すしかありません。
株式会社学習研究社
■ノーラコミックスDELUXE
■全3巻
■サイズ:A5
■補足:中古のみ流通
(1)1993年10月06日:ISBN: 4-05-600289-4
(2)1994年08月06日:ISBN: 4-05-600677-6
(3)1995年06月06日:ISBN: 4-05-600978-3




【関連リンク】
「義経」で探してみたら面白くまとめてあるサイトがありましたのでご紹介です。


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