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JESUS -イエス- 安彦良和 (著)
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今夜 鶏が鳴く前に おまえは三度わたしを知らないと言うだろう 01.「イエス」について ■この作品は前作「ジャンヌ」執筆中に、次の執筆候補として考えられていました。ジャンヌ・ダルクという人をを考える上で避けて通れない象徴であったからと、「イエス」のあとがきに記されています。また、この作品はちょうど同出版社から出版されていた高尾利数氏の著書「イエスとは誰か」を手引きとされています。 この作品でまず特徴的なのは、オールカラーで描かれているという点。やや地味な安彦カラーながらも、一コマ一コマ命を吹き込むように描かれたそれは「伝記コミック」というだけでなく、まるでイラスト集のような感覚をかもし出している。ファンにとってはプラスアルファの楽しみでもあり嬉しい限り。(尚、初期のハード版よりも愛蔵版のほうが色の出具合は濃く、より鮮明なように思える。印刷の加減でしょうが・・・) ただ、全てのコマに塗りを入れていく労力は相当なものと推して測れるのだが、一見するとやや大雑把な感じも受ける。全体のイメージを統一したYAS氏らしい塗り方をしているが、反面やや単調的な一面もあるということだ。それは小物に至るまで細部にわたって塗りこみをしていないこともあるだろうし(そもそも小道具自体あまり出てこない)、紀元前の物語ということから、背景は荒野だったり土くれの建物だったり、衣装も簡素だったり人物を中心に描いているなど、描いている対象物が簡単なことも影響しているだろう。 またコマのレイアウト的にもハッと思わせるような場面が少なかったように思う。ほとんど人物ばかり描かれていること、アクションシーンもほとんど無いし淡々とストーリーが流れていく状況では、凝った構図で見せることは難しかったか? 個人的に良かったのは・・・(下記のページは愛蔵版でのページ表示です) ■P75の上段コマ、木立の側でたたずむバラバ ・・・コレは樹形のバランス、バラバの立ち位置とも安定感があって素晴らしい! ■P162中央 ペトロがヨシュアの鍋を蹴り上げるシーン ・・・蹴り上げた際、ヨシュアのアゴに当たってのけぞる格好が面白い また、蹴り上げた衝撃を白く浮き上がらせて表現しているところがグッド ■P190 エルサレムの街を見下ろす見開きのシーン ・・・なんと言うべきか、荘厳な感じが出てて良かった(わりと似たような景色を見渡すシーンは多かったんだけど、このコマが一番良かった) ■P342上段 ヨシュアが恐怖に駆られて一人逃げ出すシーン ・・・「王道の狗」の加納を思い出した。構図的にはありふれてる感じもするけど、なんか切迫感が出てて良かったな。 ■P408 ラストシーン ・・・ヨシュアの表情、カラーともグッドでした。 この他にもいいシーンはあるけれど、わりと印象に残ったコマは上記のところ。案外少なかったようにも思える。また、やたらと十字架にはりつけられた、イエスとヨシュアのシーンが長く、かつ、複数の場面にわたって描かれているので、こんなに沢山同じようなシーンを描くのにはどういう理由からなのだろう?と疑問に思えた。あまりに長いので冗長というか、間延びした印象が強く残ったのだが・・・何かわけ知りな方おられたら理由を教えて下さい(ページがあまったから・・・とかじゃないよね?) 02.物語について ■物語は、主としてもっとも古い福音書とされる「マルコ伝」(改訂で意図的に書き足されたものではない初期バージョン)と、史科的価値の高いとされる「ヨハネ伝」に依って描かれています。ストーリーの語り手(主人公)としてヨシュアが配置され、彼の目を通してのイエスを描いていきます。彼はは最後の晩餐でイエスの横の席を与えられ、イエスに「裏切り者は誰か」と尋ねた「名前の無い弟子」「白衣をまとった若者」と呼ばれた人物を演じており、「ヨシュア」という名はYAS氏に便宜的に与えられたものです。 ヨシュアはそもそも、熱心党のバラバに言いくるめられ、イエスが救世主か、否か?を確認するためのスパイとして近づきますが、イエスと同じ大工の息子である境遇に親近感を抱いたことや、彼の言葉や行いに感動したことでイエスの側に傾いていきます。やがてヨシュアのトラウマを許してくれたことをきっかけに、イエスの人間的な器の大きさというか、真実を見通す聡明さに触れ、彼の本当の信徒になってゆくわけですが、このトラウマのエピソードにグッとくるものがありました。 このヨシュアは、あまり活動的とはいえないイエスの代わりに、単調なストーリー展開に動きを加え、感情面でも無表情なイエスに対してヨシュアは泣いたり怒ったりと表情豊かです。物語中では、最後までイエスは無表情で冷静なので、イエスとヨシュアを対比的に描いているのか?とも思いましたが、真意はわかりません。 この作中では、イエスは神がかりな奇跡を起こす救世主としてではなく、リアルな人間として描いています。時に死んだと思われた人間を蘇らせるといった奇跡を見せますが、これとて、単なる偶然が重なっただけのように見えます。彼はこうした奇跡や、彼が配るパンや魚にありつきたいがための民衆や弟子達を見て、彼の教えが伝わらないことに苛立ちを募らせてゆきます。 また、イエスの周りには本当に彼を慕っているものだけではなく、支配者ローマに対して民主の結束力を高めるため、イエスを救世主の座に押し上げたいもの、一人の救世主をローマへの生贄とすることで民族を守ろうと利用しようとするもの、様々な思惑や陰謀が彼を否応なく巻き込んでいくわけですから、彼にとってはたまったものではなかったでしょう。 しかし、イエスはそんなことも省みず、自らも予言する運命が待ち受けているのも関わらず、彼を待つエルサレムの民のもとへ向かいます。その直前に彼は数人の弟子と共にタボル山へ登り苦悩するのですが、このあたりをもう少し突っ込んで描けばよかったかも知れません。ヨシュアの目というフィルターがかかっているので、今ひとつイエスのココロの動きが読み手に伝わってこないんですよね。 物語を通してみて、福音書から引用されたと見られるセリフにアンカーが打たれ、枠外に注釈が書かれていますが、聖書を手元に持っているわけではないので、あまり意味が無いかと。先にも述べましたが、十字架はりつけシーンを延々と描くのならば、この注釈部分の説明を別ページに詳細に書いてもらうほうが、物語の理解が深まるのではないでしょうか? 正直なところ、福音書の引用セリフの部分は、文章が硬くて読みにくいし、言っていることも深く理解することができませんでした。私のようにあまり聖書にあかるくない者が読んだ場合、少々辛くなる部分だったのではないでしょうか? また、ヨシュアの語り口も結構長いので、読んでいて疲れてくる部分があります。 コンパクトに物語はまとめられ、渦巻く思惑の中で翻弄されるイエスをうまく描いているとは思いますが、全体的に少し硬い印象を受けますね。もう一人の偉大な人物「仏陀」を描いた手塚治虫氏の「ブッダ」なんて、もっと激しく脱線(?)しながらも非常に面白い壮大な作品を描いているわけで、同じような展開を望むわけではないですが、より多くの人に読ませるならそういったエンタメ性も必要な部分かと思います。この作品、ややわかり辛い内容から星3つといったところでしょうか?でもジックリ読むととても面白いですよ。何か参考書片手に読むとより理解が深まるかもしれませんね。 2005/03/20 shinji
【イエス あらすじ】 ●イエスと同じく、大工の息子として生まれ、同じ名前を持つヨシュア(ギリシャ読みでイエス)は、熱心党のバラバに唆され、イエスが本当に神の子かどうか?を見抜くために彼に近づく。しかし、イエスの説法や行いを間近で見るうちに、ヨシュアは彼を救世主だと確信していく。一方、同じくイエスに近づく男、イスカリオテのユダもイエスの真偽を推し測ろうとしていた。 【その他関連】
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