安彦作品ガイド
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Jeanne -ジャンヌ-
安彦良和 (著)
原著:大谷暢順「聖ジャンヌ・ダルク」


初出 ■NHK出版/描き下ろし

ジャンヌ 愛蔵版icon
ジャンヌ 愛蔵版icon

7&Y
オススメ度 GOOD! ★★★★★
出版データ詳細 出版データへ日本放送出版協会 ソフトカバー版
出版データへ日本放送出版協会 愛蔵版

あなた以上のものに
あなたは従いなさい!!


01.「ジャンヌ」について

この作品は1995年に全編オールカラーで描き下ろされた最初の作品で、後にオールカラー作品として'97年に「イエス」、'98年に「マラヤ」を執筆されています。安彦氏の実験的な作品として描かれたこの作品は実に気合の入った出来栄えで、読み応えのある長編となっている。

そもそもの始まりは安彦氏の「虹色のトロツキー」を読み感銘を受けた大谷氏から、氏の原著「聖ジャンヌ・ダルク」のコミック化を依頼されたのがきっかけでした。ところが、原作を持つことを好まない安彦氏ですから、この話を当初は断っていました。また、安彦氏自身ジャンヌにまつわる「奇跡」を信じることができないということも「ジャンヌ」を描けない要因でした。

しかし、重ねての依頼に安彦氏の気持ちも動き、大谷氏と直接会いに京都まで訪ねていっているようです(大谷氏は仏教徒なのに何故にキリスト系のジャンヌとつながるのか?という大きな疑問が安彦氏にはあったようです) 最終的には二人の会談で、大谷氏が、氏の原作から外れた「ジャンヌ」が出てこない安彦オリジナルストーリーで描くことを了解し、この作品が生まれることとなったのです。

02.物語について

舞台はジャンヌの死後から9年後の1440年、シャルル7世を戴冠させるためにジャンヌと共にイギリスと戦ったかつて仲間が、シャルル国王派(実質大将はリッシュモン大元帥)とルイ王太子派とに別れて争う「プラグリーの乱」。主人公はエミール・ド・ボードリクール、彼女は出自の所以からボードリクール卿に引き取られ男子と偽り育てられた。ジャンヌと同様に男装に身を包み、大元帥リッシュモン公に招集された義理父に代わり、国王の下に向かうところから始まる。

物語はエミールが狂言回しになり、かつての「ジャンヌ」の足跡を追いつつ、まるで「ジャンヌ」の人生を追体験してゆくような感覚に仕立て上げられており、エミールは追体験の中でジャンヌの存在感の大きさと、もっと大きな力(奇跡)?への畏れのようなものを感じ取ってゆく。

パートはいくつかに分かれており、シャルル国王の下に馳せ参じるまでの前半、ターンニング・ポイントのリッシュモン元帥と合流、ジル・ド・レーやアランソンなどの実在人物を配したり、宿敵ルイ王太子とのやり取りなどの後半、全編通して山あり谷ありのエピソードが用意されており、見所は盛りだくさんで最後まで飽きることなく読み進めることができる。

ただ、時代物ストーリーだけに、時代背景や人間関係がやや複雑で登場人物の名前も似たような名前が多いため戸惑う読者も多いだろう。最初に出版された3冊ものは、あとがきに大まかな時代背景や人物相関図などが書かれているので、そちらを読めばなんとなく背景は読めると思う。ただし、現在単行本は絶版のため入手は中古でしかできない。尚、愛蔵版は安彦先生のあとがきが収録されているのみで、単行本のあとがきは割愛されている。

私の場合、ほとんどこの時代の知識はないまま読んでいたのだが、映画の「ジャンヌ」(1999年・米・リュック・ベンソン監督)を見た後、この作品を読み直すとなんというか、映画のキャスティングや街並みなどの背景が脳内をよぎる。特に映画の俳優と、安彦キャラクターとのギャップが激しくて対比していると違いが面白すぎる。

ヴァンサン・カッセルが演じたジル・ド・レー(いや、安彦ジルと全然似ても似つかぬ・・・(笑))のその後なんかは、「え?そんな変わりようだったのか!?」と、自分的には結構ショックだったり(映画ではカッコイイ役回りなんだよな)、グレゴリー演じるアランソンとも全然イメージが違う(安彦アランソンの方がカッコよすぎ)し、ルイ王太子の子役なんかは、あの悪ガキぶりが成長した安彦版ルイにも引き継がれているようで面白い。

特殊な楽しみ方かもしれないが、映画とコミック、二つの作品を脳内で対比しながら、その違いも楽しめてしまって、より面白く読めてしまうから不思議だ。映画を見ない人でも、コミックを読みながら、この時代背景を少し知識として他の本から読み取っておけば、より深く物語を楽しめることと思う。

03.人物、その他について

何度か今までにも書いてきてはいるが安彦漫画の醍醐味は、その生き生きとしたキャラクター達にある。本作では主人公以上に存在感を放つルイ王太子が目玉だろう。なんといってもあの意地悪さ、我がまま、短気ぶり、好色とルイ王太子という人間の持つ感情を、その表情によく表しているいると思う。

このルイ王太子は最初から最後まで自分の好きに立ち回る人物なのだが、最後までどことなく憎めない駄々っ子のような人物に描かれていて面白い。主人公が結構無力で、状況に流されてしまっているため、逆にルイの個性が強烈な分、物語の中で存在感が強かったのかもしれない。しかし、この存在感ある敵役がいてこそ物語が締まっているものと思える。

画的な面については、もう激しく満足である。本作はかなり力が入っているというか、衣装の模様や、街並み、戦闘シーンなど非常に細かな部分まで繊細に描かれているし、登場人物の仕草や細かな演技もしっかり描かれ、引きやアップの使い方や、アクションシーンのコマワリと動線の妙は素晴らしい。加えて幻想的で美しいカラーが画面を引き立てており、文句はほとんどない。あえて言うなら、愛蔵版230~233ページの回想シーンが赤く染められていて、やや見辛く感じる部分はあった。

個人的に特に気に入ったシーンは・・・(ページは愛蔵版を基準としています)

(1)46頁~黄金色に染まる秋の妖精の木の場面、ここはなんとも美しい色使い

(2)街道荒らしとのチェイス!このアクションシーンと、93ページ下段でエミールが飛び掛るコマ、カッコええ!

(3)214頁~エミールとシャルル国王との追いかけっこ。引きとアップを使った絶妙なコマの動きとか、飛び散るりんごとか、その動きにビビッとくるものが。

(4)540頁~落雷とともに幻のジャンヌの姿が浮かび上がるシーン、なんとも幻想的なシーン

挙げだすときりがないくらい、画的な面ではホントにこの作品は出来がいいと思う。ただ、物語のオチのつけ方は尻すぼみ的なところがあるのは残念。別に後味が悪いというわけではないのだけれど、どこか肩透かし的に終わるのは安彦氏らしいというか、なんというか・・・。

しかしこの作品は後世に残せるくらい素晴らしい作品だと思う。愛蔵版はぶ厚すぎて持ちにくく、単行本の方が実は読みやすいサイズなのだが、残念ながら2005年10月現在絶版状態です。愛蔵版もアマゾン見ると取り寄せすらしていない様子・・・7&Yは取り寄せするようですが、日数はかかる模様(ページタイトル下部にリンクしておきます)。あとは探すとなると中古か、ネットでデジタル版を探すかになりますね。良い作品なんですけど、入手が難しいのが難点です。でもきっと読む価値はありますよ!

2005/10/10 shinji

【ジャンヌ あらすじ】

「ジャンヌ・ダルク」死後9年、少女の「奇跡」を体験したかつての戦友達が国王派と王太子派に別れ「プラグリーの乱」と呼ばれる反乱が起こっていた。国王派のリッシュモン大元帥に召集されたボードリクール卿は、養子であるエミールのたっての願いから彼女を戦場に送り出すことになる。

ジャンヌ・ダルクの足跡をたどり、彼女の追体験をしながらエミールは戦場へと赴き、ジャンヌの戦友達や、宿敵ルイ王太子と出会うのだが・・・果たしてエミールを待ち受ける運命とは?


【その他】

■上記文中にも書きましたが、この作品と一緒に是非見てほしいのがこの映画です。

「ジャンヌ・ダルク」
1999年製作・アメリカ・リュック・ベッソン監督
ジャンヌ・ダルクには、『フィフス・エレメント』に続きミラ・ジョヴォヴィッチが。脇にダスティン・ホフマンやジョン・マルコヴィッチなどベテランが固める。

戦闘シーンは記録に基づいた人数での戦闘を行い、カメラがその中に突入して撮るという、圧倒的迫力の画像が迫る。トゥーレル砦での戦いは圧巻。

序盤の幻想的なイメージシーンなど、テンポの悪い部分も見受けられるのだが、後半のジャンヌの葛藤シーンなど、非常に面白く描かれている。

かなりハマッタ作品なんですが、コミックとあわせてみると、より楽しめてしまう優れものの作品です。オススメ!

ジャンヌ・ダルク

ジャンヌ・ダルク

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