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江戸時代のベストセラーが今蘇る ●この「三河物語」は、中央公論社の「マンガ日本の歴史」(石ノ森章太郎:著)シリーズに続く第2弾の企画モノで、「マンガ日本の古典」として全32巻が刊行されました。このシリーズでは23名の日本の漫画家が携わり話題になったのは記憶に新しいかと思われます。ちなみに、このシリーズは平成9年度文化庁メディア芸術祭 マンガ部門で大賞受賞しており、現在では第3弾として「マンガギリシャ神話」、第4弾「マンガ名作オペラ」と企画が途切れることなく進行しているようです。
さて、この「マンガ日本の古典」で「三河物語」を書き下ろすことになった安彦氏。そもそも映画や本でしか知らなかったため、これを機会に原作を読まれたそうですが、読後感は「年寄りの愚痴」ばかりで詰まらない、というものだったそうです。そのため、大久保彦左衛門に一心太助を絡ませ、太助の視点から見た時代や人物が描かれることとなったのですが、この太助の視点で物語られる手法を選んだのは、ズバリ的中だったのではないでしょうか。 時代背景は「武士の時代」から「町人の時代」へと移り変わる頃、過去武勇に優れ出世してきたものも、戦国乱世が終わりを告げればそれも叶う機会が少なくなり、、小賢しく主君に取り入る世渡り上手な者が抜きん出る時代。大久保一族もまた、この例外ではなく、こうした時代背景の中で、もはや時代に取り残されていくだけの彦左の頑固なまでの生き様が描かれる。 物語はアクションや恋愛沙汰などの無い、非常に地味なものだが、頑なで僻みっぽい彦左と、田舎から出てきたばかりの太助との間に徐々に築かれる信頼関係や二人の掛け合い、やがて時代の流れに翻弄され傍流に落ちても、それでも剛直さを失わない彦左を見守る太助の視点が、どこかほのぼのとして、妙に心が暖まるのだ。 私自身、恥ずかしながら原作の「三河物語」を読んだことはないが、「年寄りの愚痴ばかり」という評価が多いことから、彦左のみで物語を進めると、なんだか重苦しい話になってしまっただろうが、太助の視点を用いることによって、物語をユーモラスに、時には緊張感や涙を織り交ぜながら、うまく起伏にとんだストーリーにまとめたのではないかと感じます。また、そうする事によって「文句臭いだけの物語」というイメージの奥にある、彦左の心情を汲み取ろうとしたのは面白い試みだったのではないでしょうか。 また、表情豊かな人物描写もこころ惹かれる。特に、ラスト近くで彦左が、今まで他人を憎んで、心をそのことで埋め尽くしてしまう生き方が、やがて物語を書くことに生きがいを覚え始めることで、穏やかに変わっていく表情、そんな彦左を暖かく見守る太助の表情が、なんとも言えませんね。やはり人間、イライラ、ギスギスしながら生きるより、心豊かに生きるほうがずっと幸せなはずですもんねえ。いまの自分の職場環境を思い浮かべながら・・・つくづく思いました。 それと、画的な見所は・・・戦場シーンでしょうか。合戦シーンを描かせると、安彦氏の右に出るものはなかなか思い浮かびませんね(馬とかもね) この作品読んでみて、改めて感じました。・・・あと、ラスト近くでようやく出てくる松前屋。出番少ないくせにあんた強すぎ(笑) あと、ちょっと辛かったのは、彦左の軍談のところか。ページ数そのものは少ないので気にならないかも知れませんが、読み飛ばす人も多いんじゃなかろうか。文字がズラズラコマを埋め尽くしていたり、注釈が多い漫画は読むのが辛いんですよね。私自身、読んでいて軍談のところであくびが出まくりました。彦左の話を聞いていて眠ってしまう浪人衆たちの気持ちがわかりますね(笑) 軍談のところは、その件を彦左のアップではなくて、話の想像図などを交えながら描いてみるとか工夫が必要かも。また、彦左の人物像を強調するためか、彦左の怒りのシーン&表情のアップが非常に多かったように感じます。まあ、その表情を楽しむのもまた、一興かもしれませんが。 さて、今作品の全体評価はオススメ度4。結構暇なときに読み返してしまうマターリ感が良い。出来れば大判で読むことをお薦めします。 2003/11/24 shinji
【関連リンク】 ●google検索で一心太助 5940件(食いモン屋のHPおおいッス)/大久保彦左衛門190件 参考になりそうなページをピックアップ 歴史の館 > 大久保彦左衛門忠教(ただたか)の年表 大久保彦左衛門のページ 【あらすじ】 ●江戸時代前期の旗本 大久保彦左衛門忠教が、徳川家代々の事績と大久保家歴代の忠勤を書き留める「三河物語」。本作品では一心太助を語り手に彦左衛門が生きた時代を取り上げる。 三河から侍になるため江戸にやってきた太助は、ちょっとしたことから町で喧嘩になってしまう。その喧嘩を止めたのが大久保彦左衛門、その人との出会いであった・・・。 【簡単コミックデータ】 ●2003/11現在、まだハード版、文庫版ともに新刊書籍で入手可能のようですので、是非ハード版の大きい誌面で読みたいところですね。もっとも一般書店では店頭に置いていないでしょうから、取り寄せ、もしくはAmazonなどweb購入を利用することになります。中古市場でも比較的流通しているので入手しやすいでしょう。ハード版については、そろそろ絶版の時期が近づいてきてるように思われます。
【その他】
●ちょうどこの江戸時代前期を描く漫画でお気に入りが一つ。ほとんどの人が知ってるだろうけど・・・井上雄彦著「バガボンド」(吉川英治原作:宮本武蔵)。安彦氏の「三河物語」と直接的にはなんら関係ないけれども、つい最近出た18巻読んで思い出したんで紹介。実にこの作品、18巻目で3500万部売ってるそうです(ソースは18巻付属の帯から) 3500万部で1冊が524円だから、単純計算で183億4千万!!(講談社ウハウハやね) その10%が印税として18億・・・? いやあ、もう遊んでても暮らしていけますね・・・イノタケさん。それでも描いてるんだからホント、画が好きなんだろうなあこの人・・・。あ、お金の話はさておき、この作品武蔵の生き様を描くだけでなく、小次郎の人生も赤ん坊から描いてくれて、しかも独自設定で小次郎の耳を聞こえなくしてしまったりして、この先どう展開していくのか・・・結構テンションを保ったまま連載を続ける、かなり楽しめる作品です。一度チェックしてみてください。
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