安彦良和-WORLD WorkList-Comic 虹色のトロツキー
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01.川島芳子との出会い■昭和14年(1939年)1月、訪欧していた甘粕が帰国。満鉄「あじあ」号の1等室に集まるは、満州国総理・張景恵、満州国総務長官・星野直樹、岸信介、関東軍司令・植田謙吉、参謀長・磯谷廉介、満鉄総裁・松岡洋石、といった面々。ドイツを視察した甘粕は近々大きな戦争が起こると予想する。相手は英仏かソ連か・・・。
一方、流されるまま馬賊になってしまったウムボルトは、窮状打破の為に、牡丹江で謝文東一派と接触しようと苦力に紛れ込むが、賃金トラブルで日本人に暴行された苦力に助太刀したために、騒ぎに巻き込まれてしまう。 相変わらず自分の立場も考えずに行動してしまうウムボルトだが、その逃走の最中、ある日本軍人に助けられる。それが川島芳子との出会いだった。こうした有名人に次々とウムボルトが出会っていくのは多少無理があるのだが(読み手によっては興が削がれるかもしれない)、一方でそこがフィクションの醍醐味でもあるだろう。 ※川島芳子(愛新覚羅顕王子・金壁輝)・・・清朝王族粛親王の王女として生まれる。父の盟友、川島浪速の養女となり、上海で日本軍の情報活動に従事。満州国建国と共に満州へ移り、天津にいた皇帝溥儀の妃の連れ出しなどに暗躍。さらに匪賊討伐の司令となる。 ■深見圭介と川島浪速とのつながり、その周辺については・・・ウムボルトが建大在籍当事に、川島周辺のつながりを調べてはいた。このあたりの満蒙独立運動が取り持つ縁についての解説はズラズラとした文字列挙で非常に分かりにくい表現なのだが・・・
芳子の情緒不安定で突発的な感情の発露に戸惑いながらも、情報を聴きだそうとしたウムボルトだが、残念ながら、「深見圭介が通遼で連絡員、張作霖派のスパイをしていた」ということしか情報を得ることしかできなかった。しかし、ウムボルトにとってはもうそれで充分だった。 今まで深見が何故殺されたのか?、何故新疆へ行ったのか?、トロツキーとどんな関係だったのか?と、気にかかっていたのだが、川島芳子との出会いで、張作霖事件にからんでいた事が分かった。あるいは犯人の仲間で口封じの為に殺されたのか・・・。 ウムボルトには張作霖事件の日本人の汚いやり方が許せなかったのだ。そんな事件と深見は関係ないと思っていただけに、父に対する大きな失望感が彼を襲ったのだった。 ■一方、ホテルから追い出されるウムボルトとすれ違いにやってくる辻少佐。辻は関東軍参謀中佐・服部卓四郎に「満ソ国境紛争処理要綱」素案を提示する。これはつまり、以前から辻が暗躍している「極東ソ連を叩き、沿海州を奪取する」作戦の実行案である。その辻の作戦とは・・・
02.謝文東との出会い■宋司令の接触で、謝文東自らがウムボルトに会いに来た。抗日聯軍とは縁を切ったという謝文東は共産党は大嫌いだという。そして、張景恵や関東軍司令が詫を入れるまで戦うと宣言する。謝れば許すという彼は、まあ意地を張っているだけで思想に縛られて動いているわけではなさそう。そんな謝文東と組む気になるウムボルト。誰かに利用されるのではなく、本当の国をつくりたい、満州国を造りかえたい、と謝文東に告げるのだった。 ■謝文東と合流したウムボルト達はその後、東満・穆稜近郊へ向かう。そこでぶち当たったのが郭立波の満軍であった。郭立波は謝文東と依蘭で張り合っていた匪賊だったが満軍に鞍替えした経緯があった。意地がある(半分やっかみか)謝文東は、郭を包囲殲滅し鬱憤を晴らしたい。 正面からウムボルトの隊を当たれと指示する謝文東は、ウムボルトの力を試そうとしていた。宋はこんな危険な橋を渡るまねは止めるよう進言するが、ウムボルトも意地の張り合いでは負けていられない(笑) かつて建大の辻権作先生から受けた遭遇戦演習を実践するウムボルト。機銃を使わせないため白兵戦で挑む。 結果、戦いには勝利したウムボルトだったが、大きな疑問が彼の脳裏を過ぎる・・・、この無益な殺し合いは何なのか?、これは何のための戦いなのか?、誰が、何のために、誰を殺しているのか?と。自分自身のしていることが、満州国を変えることに本当につながるのか? 謝文東の部隊の中も既に仲間割れが始まっている。謝文東には思想がなさ過ぎることが一因なのだが、離脱し金日成と合流しようとする朝鮮系の朴は言う、やはり民族の血が大事だ、漢人は漢人、朝鮮人は朝鮮人、日本人は日本人だと。しかしウムボルトはあくまで五族共和の理想にこだわるのだった。 03.旅の終わり ■謝文東に合流しても窮状が打破されないまま追い込まれてゆくウムボルト。そんなある日、彼らの前に日本人が現れる。かつて建大で合気道を指導した植芝盛平その人であった。 ウムボルトを連れ戻すため現れたのかと思いきや、彼に会いたいという人物を連れてきたという。その人物は大連特務機関長・安江仙弘大佐。安江大佐は、陸士の同期の縁で石原完爾、そして深見圭介とも知り合いだったという。 安江の目的は、石原の特命を受け暗躍する辻の工作を潰すことにあり、その計画に関わったウムボルトに力をかせというのだった。 ■もはやジリ貧でどうにもならないドン詰まり状態だったので、突然現れた安江大佐は助けに船状態。本来なら主人公の知恵と工夫で脱して欲しかったのですが、過去の安彦作品にもありがちな「誰かが突然やってきて助けてくれる」という王道の展開がここでも炸裂。物語を新たな展開へつなぎます。
この巻はかなり内容が濃く、情報量は非常に多いです。ここに書かなかった石原の内地での話や、辻の暗躍なども興味深く描かれ、その分ストーリーには引きつけられるのですが、主人公がどんどん不毛な消耗戦に突っ込んで泥沼化しているのは鬱な気持ちになってつらい状態でした。 合間には麗花とのラブロマンスとかもあるんですけど、ベラロッテとのドロドロなやりとりなんかも生臭く描かれていてやっぱり鬱展開だよな。いや、そもそもこの女スパイはウムボルトの拉致失敗時点でその役目が終わっているように思えるのですが、なぜいつまでも彼らにつきまとっていたのか?舞台から退場するまでよくわかりませんでした。 さて、次巻からは舞台を変え、ウムボルトも表舞台に舞い戻ります。果たしてトロツキー計画の決着がつくのかどうか?・・・感想紹介文のはずが、ストーリーを追う状態に陥ってますが、これで折り返し地点。まだまだ運命の流転は続きます。皆さんもうしばらくおつきあいください。 2007-09-02 shinji
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