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王道の狗
In the Shadow of Justice
安彦良和(著)

初出 講談社 ミスターマガジン連載
[白泉社版]
■第一巻 1998年No,01~No,13掲載
■第二巻 1998年No,14~No,24 1999年No,01~No,03掲載
■第三巻 1999年No,04~No,07 第31話描き下ろし 1999年No,08~No,12・14~16掲載
■第四巻 1999年No,17~No,23 第47話描き下ろし 1999年No,24・2000年No,01~No,03掲載
オススメ度 オススメ! ★★★★★
出版データ詳細 出版データへ講談社/ミスターマガジンKCDX版
出版データへ白泉社/ジェッツコミックス版
政治というやつはねえ
五十年先が大事なのサ!

01.東京へ

白泉社版の第3巻表紙は改めて描きおろしされ、第31話「帰郷」が追加エピソードとして加筆されています。表紙の加納はちょっと微妙な感じがしますが。

物語は「金玉均」が閔妃からの刺客に脅されるシーンからスタート。金玉均は常に刺客から監視されていることを再認識、武田惣角も内地に戻るために側を離れ、護衛役となった貫真人(加納のこと。クワンの日本人名として金玉均が加納に与えた名)も気を引き締め直さざるを得ない状況に。

そんなある日、病気療養として3ヶ月の間東京に上京することが認められた金は、貫等をつれて北海の地を離れる。金玉均の様子を見た貫は、彼が二度とこの地に戻らない決意でいることを感じ取るのだった。一方、閔妃の刺客と、雇われた「柳生心眼流」の小野寺重吾も彼らを追う・・・。
閔妃(ミンビ、びんひ)・・・(1851年10月19日 - 1895年10月8日)李氏朝鮮の最後の王(第26代)高宗の后。明治二十八年宮中で日本人暴徒に殺害される。

クローズアップ前半は東京へ向かう金玉均を護衛する貫(加納)と、それを追う刺客、強敵「柳生心眼流」の小野寺との決着が描かれる。途中、金玉均が語る、日本へ逃れる際に助けてくれた"辻船長"という日本人の話、そして「何人の辻船長に会えるだろうか」という金の言葉が心に残る。この"辻船長"のエピソードはちょっとした伏線になって後に使われるので覚えておくといいかも。

ここでの見所は、立侍岬での小野寺と貫真人との激闘シーンでしょう。あらゆる汚い手を使ってでも勝とうとする小野寺、貫は余裕かまして格好つけてる場合では無いような気もしますが・・・最後の決着シーンは壮絶な表情がみられますので、ここは必見でしょう。

また、函館ではタキと再会する場面もあり、ここで貫の気持ちを再確認するのですが、でもやっぱり最後はサヨナラなんですよね。風間との微妙な三角関係、貫の志を考えればタキを連れて行くことも、函館にとどまることも出来ないと思うのですが、個人的には今ひとつタキと貫、二人の心の揺れについては感情移入できないというか、察しがつかないところがあります。

02.帰郷、そして再会

東京へと到着した金玉均一行、しかし貫(加納)は故郷が懐かしくてしょうがない。意を決して金に許可を得て実家へと舞い戻るが、脱獄囚を受け入れる家族などいようものか?・・・涙ながらに実の弟に詰られ、突き放される貫に哀愁が漂う。

一方、金玉均はナンバー2の朴泳孝とともに、有力者のもとに出向いて回る。福沢諭吉、勝海舟とも会うのだが気持ちが通じ合うことはなかった。一行はそのまま伊香保温泉へ向かうのだが、そこで貫が再会したのは足尾銅山の視察に訪れていた役人、財部(風間)だった。

クローズアップ第31話「帰郷」が新たなエピソードとして挿話。故郷を忘れられず実家へ戻る貫だが、壊れてしまった家族はもう元には戻せない。自分の犯した罪がもたらした今の家族の境遇、時間の経過が貫に重くのしかかる。涙ながらに兄を突き放す弟の悲痛な想いが読み手の心にも突き刺さるのだ。

立ち去る加納の表情は、哀愁を漂わせつつも涙は流さない。今更どんなに誠意を尽くして謝ったところで、過ぎた時間は元には戻せない。既に”加納周助”は社会的に死んだのだと再認識し、貫は決別の意をここで固めるのだった。もはや彼には自らの志を貫いて、新たな道を進むしか残されてはいないのだから。

ただ、この「帰郷エピ」追加はいいのですが、後に景山と再会した折りに「家族によろしく」と話す場面はとくに修正されていません。まあ、話的におかしくはないので、修正する必要も無いのでしょうけど、ここで決別の意を決したにも関わらず、また後で「家族に宜しく」と台詞を吐かせるのは未練が断ち切れていないというか、ここで描いたエピソードと多少の矛盾が出るような気もしますね。

また、この中盤で貫は新たな出会いや、再会が待ち受けています。まずは福沢諭吉、結構傲慢なお人に描かれてます。勝海舟は飄々としたお爺さん。思ったことをツラツラと語るのですが、金玉均には受け入れられなかった様子。しかしここで勝海舟は貫に目をつけます。これは後の展開への布石なので要チェック。

そしてもう一つ、財部(風間)との再会。古河をバネに陸奥宗光に取り入り出世街道に乗る風間だったが、この再会が思わぬ災難となります。ここで、安彦作品王道のエピソード「監禁」が描かれます。もう、いつになったら主人公監禁されるんだよ!とイライラされていた方々、ご安心ください(笑)

陸奥宗光に共に仕えるという財部の誘いを突っぱねた貫は、石川島監獄に捕らえられるが、数ヶ月が過ぎた頃ある日突然釈放される。勝海舟が身元引き受けとなり貫を釈放させたのだった。突然のことに状況が飲み込めない貫。どうやら朴のルートから勝海舟へ依頼が入ったらしいが、勝海舟自身もも貫に興味がわいて引き受けたことだったのだ。以前面倒を見ていた坂本龍馬と貫を重ね合わせる勝海舟。そして貫に船乗りになれと誘うのだった。
勝海舟・・・(文政6年1月30日(1823年3月12日) - 明治32年(1899年)1月21日)幕臣、政治家。1860年、咸臨丸でアメリカ・サンフランシスコへ渡航している。

クローズアップストーリーも転換点。勝海舟との出会いが貫を新たな運命へと誘う。勝はアジア諸国は力を合わせ、西洋の力が押してくるのを防がなければならない、と貫に語る。そして李鴻章との交渉をうまく運べば、金玉均を活かすことも出来るだろうとも。その大仕事に貫を選び船を与えようというのだ。勝海舟の先見の明に貫も心を動かされる、もっともその後の時代の流れは勝の思うような流れには至らなかったが。

一方、勝の動向が気に入らない陸奥は、部下の財部(風間)に勝海舟の船の進水式を邪魔するように指示、加納と風間の最後の攻防が始まります。果たして無事に進水式が終わるのかどうか?二人の気持ちの決着は?物語の第一部も大詰めです。

尚、第3巻後半は物語第2部へ突入、三合会(中国の秘密結社)に加わる貫、そして孫文との出会いが描かれます。熱き時代の志士達、彼らの目指すところは果たして・・・?

2007-09-30 shinji
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