寛容になれるのは勝者の特権だ
01.「シャア・セイラ編」とは?
■第9・10巻「シャア・セイラ編」のご紹介です。エース誌上の掲載期間は以下のとおりです。
9巻前編
■04年09月26日VOL,027(11月号)
■04年10月26日VOL,028(12月号)
■04年11月26日VOL,029(01月号)
■04年12月26日VOL,030(02月号)
10巻後編(ぶ厚い・・・)
■05年01月26日VOL,031(03月号)
■05年02月26日VOL,032(04月号)
■05年03月26日VOL,033(05月号)
■05年04月26日VOL,034(06月号)
■05年05月26日VOL,035(07月号)
物語はジャブロー戦後から始まり、新メンバーとしてスレッガーロウ小隊がWB部隊に参加します。今後彼らジム小隊がどう活躍するか期待されますが、それはまた後の話。今回の章は「シャア・セイラ編」と銘打っており、文字通り二人の過去の物語を安彦オリジナルで描く「ガンダム外伝」的な位置付けの章となっております。
もし、ファーストのストーリーを知らない人がいたとしたら、オリジン1~8巻まで描かれた内容で、二人が兄妹であるということまではわかったが、二人の過去に一体何があったのか?、シャアは何故ガルマを罠にはめたのか? ランバ・ラルとセイラの関係は?・・・といった疑問点が残るだろう。二人の過去についてはTV・劇場版ともに多くは語られておらず、他のコミカライズされた作品でも描かれていない。つまりは見る側で脳内補完せざるを得ない状況だったのだが、今回GA誌上で読者からのアイディア募集が行われ、採用されたネタを元にして、安彦先生がストーリーを構築していくという、読者参加型のオリジナル企画である。(ただし、後編途中あたりからは安彦先生独自の脚本で描いている模様)
ことの始まりはガンダムエース2004年8月号のカラーページ特報からでした。見出しには大きく「シャア&セイラ編始動」と書かれ、今まで語られることの無かった二人の過去を描くにあたり、読者からストーリー・アイディアを募集する、という告知でした。(尚採用者は最終的に7名、YAS先生オリジナルサイン色紙がプレゼントされ、2004年11月に某所にて座談会が設けられ、その模様はGA2005年1月号で掲載されている)
そもそも、オリジンスタートの頃はこういったシャアの過去などのエピソードを追加で描く予定は無かったはず(サイン会の受け答えの中でもやらないと発言していた)なので、物語の進展具合を見て「このままだとあっという間にオリジン終わっちゃいますよぉ、終わった後どおするんですかぁ!」と考えた編集部が「GA延命策として先生に外伝描いて貰いましょう・・・」となったんだろうか・・・?。たぶんYAS先生も気乗りしないけどオリジン描くのも飽きてきたし外伝描いて気分転換しようかなあ~、といったカンジで始まったのではないかと・・・素人の憶測ですが。
もちろん過去から様々な後付け設定が施され公式設定が生み出されている昨今、オリジンで新たなエピソードを創造するのは狂信的なガンオタからのバッシングなど覚悟しなくてはならない部分もあるだろう。私個人としては過去のエピソードがあったほうが物語りの厚みが出るということや、シャアの行動にも説得力が出てより物語に面白みが出てくると思うのでオリジナル展開は歓迎する方向なのですが、心配なのは突如わいてきた企画なので、今まで描いてきたストーリーや個々のセリフなどに矛盾点というか、つながりに違和感が生じるところや、本筋の大きな流れをぶった切ってしまうので、それもチト辛い部分があるかと。
2005年5月現在、当サイトのトップページのアンケートを見る限りでは、おおむねファン層には受け入れられている様子だし、シャア・セイラ編の書評をブログで探してみると評判は悪くないようなので、一先ずは安心といったところか。
02.新・旧キャラクターたちの織り成す人間模様
さて、前フリが長くなりすぎました。肝心のストーリーです。この章では10年前のUC0068、ジオン死去からキャスバルが名を変えて公国の士官となり開戦(ルウム戦役)に参加するまでを描く模様で、GA2004年10月号ではプロローグとしてシャア・セイラ編のイメージイラストが数枚公開され期待は高まります。
もっとも、描いているうちに予定枚数をかなり超えたらしく、一旦「シャア・セイラ編」はジオン潜入(士官学校入学)までで中締めとし、2005年8月号から「開戦編」として仕切りなおしされている。ということは、切のいいところで12巻までオリジナル路線が続くという予想ができる。2005年8月現在(10月号)では3話目となり、連邦への反乱の狼煙が上げられ、いよいよ開戦間近なムードになっています。となると、開戦編であと5話くらい残る計算になるので、ルウム戦役までは余裕で描けそうな気もするのですが、さてどうなることやら?
話を戻しますが、この章では10年前の話ということもあり、MSはほとんど出てこない状態で、人間模様を中心に描かれています。見所なのがなんと言っても若き日のザビ家の連中。デギンはまだバリバリの現役風だし、ギレンは切れ者だけどまだ頼りない一面もあったり、ドズルはまだ怪我する前だったり、キシリアは髪の毛ハネテルし・・・そしてサスロ兄という設定上だけだった人物もここにきてYAS画で描かれたり!(ああ、ガルマもいますよ)と、第1話から結構ハイテンションに楽しめます。その他にも、ジオンとその妻アストライア、マモー似の正妻(?)のローゼルシアやジンバ・ラルといったオリジナルに描きおこされたキャラが続々と登場しなんとも贅沢な状態に!!
もっとも新キャラは思った以上に活躍しないまま、退場していく人が多いのが残念なところ。ダイクンなんて速攻お亡くなりになってしまうし、ローゼル婆さんも一話だけでその後はお亡くなりに・・・。非常に勿体無いキャラの使い捨て状態です。私的にはもう少しジオンとその家族の幸せな日々と、両親の存在の大きさみたいなものをキャスバルが感じるシーンを多くして欲しかった気がします。そういう大切な日々をある日突然、理不尽に奪われるというところから、キャスバルの憎しみが培われ後の復讐劇につながる訳ですし、アッサリ・サラリと流されると、せっかくのキャラも勿体無いだけで終わってしまう。
またジンバ・ラルもジオンの側近という重要人物でありながら情けなさすぎか。物語スタート前には、キャスバルやアルティシアを導く第2の父みたいな役回りで、ザビ家と立ち回りながら最後には暗殺されるのか?と色々妄想していたのですが、実際オリジンで描かれたジンバは・・・あまりに不甲斐ない姿にもうガックリ。ただの力ない爺さんではないか・・・残念!
03.注目のキャラクター
一方、生き生きと魅力的に大活躍するのが、ハモンとランバ・ラル。この章でもっとも輝いているのがこの二人ではないでしょうか? 特にハモンは秘書姿や連邦制服でコスプレシーンを見せてくれたり、ガンタンクによる脱出劇でも大暴れ(?)して、ランバよりも目立つ存在なのです(特に後編で歌っている姿がエロいのですが・・・)
後に地球でお亡くなりになる二人なので、それを思うとなんだか複雑な思いが湧き上るのだけど・・・、できれば「シャア・セイラ編」はランバ・ラル編よりも前に描いて欲しかったなあと、この章を読んでいて感じました。ガルマ編直後あたりから描いて、ランバ・ラル編につなげたら、ランバやハモンに感情移入できて、その後の物語が物凄く面白くなったんじゃないかなあ・・・(妄想ですよ)
また、シャア・セイラ編といいながら、今ひとつキャスバルの自己主張が少ないかな?という気もします。勿論キシリアとのやり取りとか、ガンタンクでの砲撃シーンでのセリフなどもあるんだけど、全体的にみてキャスバルの語りが非常に少なく、無表情なので何を考えてるのかよくわからない。セイラの回想から始まったから?という見方もあるのだけど、そのせいでキャスバルの怒りとか、憎しみといった感情が読み手に深く伝わらない状態なのです。後編に入ってもその見せ方は一貫しており、終盤で訃報を受けた際の表情くらいしか際立った場面はなかったかと。その点は少し残念なところです。
後編では物語のキーマンとなる某青年が登場しますが、読者にとってはいろんな意味で衝撃的なキャラクターでした。この件についてはネット上でもかなりの物議を醸し出し、設定が安易過ぎる!、もともと双子で里子に出されていた?、いやいや影武者に用意されたクローンじゃねえ?などと数々の憶測が飛び交うが、どう考えても綻びが・・・しかし当の安彦先生は全然気にしていない様子。
個人的には他人の空似にしても、髪型を変えるとかやり方はあったように思うし、ストーリー上でも二人の外見が瓜二つにあることにセイラ以外誰も突っ込まない点が気になる。身近な父親やテアボロおじさんなんかは驚くだろうし、まったく無関心であることのほうが不自然な印象を受ける。特にラストの空港職員が二人を友達扱いしている(普通は兄弟と思うだろう)し、キシリアの部下もただの連れだと認識しているし、ちょっと設定に無理がある気がします。まあ、瑣末なことじゃないか漫画なんだし、と言われればそれまでなんですけどね。
あと、ラストのキャスバルの立ち回りで、彼が非常に冷酷な「悪人」に描かれているのが少し気になった。アニメ版ではザビ家に対する復讐者であって多少なりとも正義的(・・・いや、それも違う?)一面があったように思うのだが、無関係な友人を利用しておいて平然としていられるのは、ちょっとキャラが違うんじゃないか?とも思うんですが・・・でも、そういえばアニメ版では腹心の部下だったドレンを利用してるか・・・まあ、このあたりは安彦先生のとらえ方があるので仕方ないところなんですけどね。
一方、MS・メカマニアの方は、この章に入ってかなり退屈しているのでは? ガンタンクの初期型(?)がデモ隊を放水で蹴散らすシーンとか、ガンタンク同士の砲撃でどっちがどっち??という状態にパニくったり、ラストの貨物船くらいしか見るべきものが無くこの章を読み飛ばそうとしているのではないでしょうか? そういう方は後編にでてくるモビルワーカー01式にプチ期待してください。MS開発の歴史(?)みたいなものも感じられていいのではないでしょうか?
もっともこのモビルワーカーも登場場面は少ないですが、おそらく開戦編のほうがより多く描かれることでしょう。ここではラルと三連星がテストパイロットで知り合いという設定も見逃せない点。どういう経緯でラルがドズルに拾われたのか?という部分もちゃんと描かれていてファンには嬉しいところでしょう。
なんだか取り留めのない書き方で長々とした文章なのでよくわからん状態になったかも知れませんね、すいません。まとめると、10年間の出来事を2冊にまとめるこの過去編、範囲が広すぎて多くの登場人物・イベントを消化し切れなかったように思われます(使い捨て感覚が強い)、そしてラストのやや無理のあるというか、なんとなく安易な設定が残念なところ。某青年が無邪気だっただけに、その最後が読後感を悪くしているところがあるかと。しかし、ラスト近くのキャスバルとアルテイシアとの別れシーンを見るとそういったマイナス部分は吹き飛びますね。
尚、このオリジナル路線はまだ「開戦編」に続きます。シャアの士官学校時代、反乱、そして開戦と動乱の時代が描かれます。ガルマがかなり活躍するので、ガルマ萌えな方は必読でしょう。ご期待ください。
2005/05/04 shinji
2005/08/28 改
【登場人物一覧表】
■この章に入って登場人物が数多く出てきたため、新旧含め整理してみました。
「シャア・セイラ編」 登場人物一覧表
【第9・10巻 シャア・セイラ編 あらすじ】
●ジャブロー基地の攻防を圧勝した連邦軍、WB部隊は新たな任務に向け出航準備を進めていた。しかし、シャアと再開したセイラの気分は浮かないまま、セイラの回想から二人の過去に時間は飛ぶ・・・。UC0068ムンゾ自治共和国で行われた議会壇上で、時の人ジオン・ズム・ダイクン議長は突如心発作で倒れる。ジオンの側近であるジンバ・ラルはザビ家の陰謀であると、残されたジオンの遺児キャスバルとアルティシアに告げるが、ザビ家の動きは既にラル家の手におえない状況になったいた。